大会長挨拶

デイケアの再発見−ひとを育み、未来を拓く居場所へ−

会長

日本デイケア学会第28回年次大会福岡大会
大会長 川嵜 弘詔
福岡大学医学部精神医学教室

2024年3月16日(土)と17日(日)、2日間にわたり、第28回日本デイケア学会福岡大会を開催します。大会のテーマは「デイケアの再発見−ひとを育み、未来を拓く居場所へ−」です。

我が国の現代社会は、社会の成熟と言えばいいのか、グローバルな資本主義経済が進展し、価値観の多様化と同時に、人間についての価値観も大きく変容しています。

哲学的および実存的な人間の価値は時代とともに忘れ去られ、現実的で功利主義的な価値観が無意識に強調され、同時に自己のアイデンティティと共に、自己価値や人生の意味も変容しつつあるのではないでしょうか。

特に若者(児童、思春期、青年期)については、その発達段階で自己肯定感を育む機会とその重要性が失われ、本来あるべき健全な発達が保証されていないのではと思わされます。

このような混沌とした現代社会において、安心感と思いやりに満ち、豊かな人間関係の相互作用によって形成される場所を造り、維持し、守り続けることは必須だと思われます。すなわち、デイケア(集団療法的社会)という場所は、そうした課題に取り組み、若者たちが自分らしくいられる場所として重要な役割を果たす可能性を秘めているのではないでしょうか。デイケアは、若者が集団の中で自己のアイデンティティを見つけ、次のステップに進むのを助け、新たな価値を提供するのです。

私たちはコロナ禍の中で、対面交流が激減し、人との直接的なコミュニケーションが制約される中で、デイケアが果たす役割の大切さを改めて学びました。デイケアは、孤独感や社会的孤立を和らげ、心の支えとなる場であり、単なるサービス提供の場ではなく、真に共感し合えるコミュニティの拠点でもあるのです。感染対策が取られた中で、対面での交流が制約される中でこそ、私たちはデイケアが持つ非物質的な価値を再確認することができたのではないでしょうか。お互いの存在を感じ、励まし合い、共に成長していくプロセスは、デイケアならではの貴重な経験となります。

本大会では、デイケアが果たすべき役割や、その重要性について改めて考え、また、それが社会全体にもたらす影響について深く掘り下げていきたいと思います。皆様がお持ちの知識や経験を共有し、新しいアイディアや取り組みについて熱心に議論していただければと願っています。

この大会が、デイケアを利用する当事者、関連する医療従事者、そして関心を寄せるすべての皆さんにとって、知識と洞察を共有し、未来のデイケアを構築するためのプラットフォームとなることを期待しています。ひとを育み、未来を拓く居場所としてのデイケアの新たな可能性に挑戦し、共感し合う場として、この大会をご活用いただき、デイケアの本質を深く理解し、新たな展望を切り拓くための道しるべとなることを期待しています。

最後に、この大会の成功に向けて協力していただいている皆様に心から感謝申し上げます。デイケアの未来は、私たちが共に築いていくものです。久しぶりの対面での開催ですが、桜が満開の予感にみちた福岡で、皆様にお会いできることを心より楽しみにしています。